日本では、全ての主要な大手ブルワリーはダークラガーを生産している。しかしながら、それらが何スタイルなのかは明確でないことが多い。ラガーイーストを使っているのに、スタウトと呼ばれるものがある。また、ブラックという英語の語を使ってブランド化しているものもあるが、そのほとんどはラベルに「黒」と記されている。このように、黒ビールは包括的な用語として全てのダークビールに使われている。ビールを飲む多くの人たちにとって、スタウトは黒ビールであり、同じくポーターも、その他のどんな種類のダークラガーも黒ビールである。しかしながら、スタイルを突き詰めると、もっと複雑で面白い。中央ヨーロッパでは、東ドイツのチューリンギア発祥のシュヴァルツ、南ドイツのバイエルン州発祥のドゥンケル、チェコ共和国のボヘミア発祥のトマヴィーまたはチェルニーの三つの主要な伝統的なダークラガーがある。これらは一つ一つ明確に異なる点があり、各々の伝統的な醸造方法は日本を含め、世界のクラフトビール業界に影響を与えている。
シュヴァルツはドイツ語で黒を意味するので、日本の黒シュヴァルツはドイツ語で黒という意味である。そのため、日本の黒ビールはシュヴァルツビールを直訳したものだ。シュヴァルツはかつての東ドイツのチューリンギアで生まれたスタイルのビールだが、共産主義時代に大きな痛手を受け、西ドイツにいたってはほとんど忘れさられていた。シュヴァルツビールは本当に黒色で、通常ヘッド(泡)は灰色がかった白色で高さがある。アイリッシュスタウトにも見られるように、大量の焙煎された麦芽を使用しており、その特徴がよく現れている。シュヴァルツは、ドライスタウトのラガー版と考えてもよいかもしれない。苦いコーヒーのような特徴や、わずかなダークチョコレートの風味があり、ほんの少量の甘味がある。低温での発酵させる下面発酵のラガーの特徴であるわずかなフルーティーさに加え、シュヴァルツには焙煎した麦芽と、わずかばかりのホップの苦味が後味に残る。ホップの香りは弱いか全く存在しない。最も有名な例でいうと、日本でも手軽にボトルを入手できるケストリッツァーであろう。しかしながら、良好な状態のケストリッツァーを日本で見つけるのはほとんど不可能に近い。コーヒーによくみられる熟成や酸化によるダンボール臭を思わせるものに出会うかもしれない。おそらく、日本でつくられたシュヴァルツの特徴をよく捉えているものを試してみるのがよい。エビスのプレミアムブラックの特に生ビールは大量生産型ではあるが、手始めにはおすすめである。

いくつかのクラフトシュヴァルツビールはさらに優れている。ベアレンの「シュバルツ」は大量のダークチョコレートとコーヒーによって粘度が高くクリーミーで、低温殺菌されていない生のタップビールを飲むのが望ましい。ハーヴェスト・ムーンの「シュヴァルツ」は、しっかりとした焙煎香とコーヒーのような香りが感じられる。味わいは焙煎香がありつつもクリーミーなカフェオレのようで、わずかにベリーとチョコレートの特徴がある。わずかな甘味もあるが、ピリッとしたホップの苦味もあり、後味はキレがあり焙煎の風味が残る。コエドの「漆黒」は焙煎香とわずかばかり燻製香もある。クリーミーで甘い風味と、軽い焙煎とホップの苦味のバランスがうまく取れている。田沢湖ビールの「ダークラガー」は、パンのようなダークチョコレートの麦芽香がある。満腹感をもたらすが甘くはなく、キリッとした軽い焙煎の風味が後味に残る。明石ブルワリーの「悠久の刻」もまたバランスのとれた素晴らしいシュヴァルツで、兵庫県以外で見つけるのはいささか難しいが、探し求める価値はある。同様に、夏限定の小樽のシュヴァルツも北海道以外で見つけるのは難しいといえるかもしれない。北海道といえば、忽布古丹は少なくとも二つのとても素晴らしい伝統的なシュヴァルツと、大量のニューワールドホップを使用したシュヴァルツのカスカディアン・ダークラガーを複数醸造している。忽布古丹がつくるブラックラガーはどれも試す価値がある。シュヴァルツビールは、多くの日本のブルワリーが上手につくるスタイルで、上記以外にも試す価値のあるビールはたくさんある。
ドゥンケルはドイツのダークビールで、色は通常、琥珀色から茶色の間で、黒色であることはない。ミュンヘン発祥のスタイルで、ミュンヒナードゥンケルはヘレス(バイエルン州発祥のラガーで、ミュンヘン周辺地域で最も人気なスタイル。本誌第42号「ビアスタイル」参照)用のペールモルトがつくられるよりもっと前から市内やその周りの地域で長く人気があった。実際に、ドゥンケルはミュンヘンモルトを使った代表的なビールで、濃色で、芳潤だが、口当たりは軽く、パンまたはトースト、木の実、カラメル、チョコレートの味わいが特徴。このビールは決して焙煎されるべきではなく、コーヒーやフルーツのような味わいがあるべきではない。ホップの特徴は控えめ。このスタイルのビールは液状のパンのようで、芳潤であり満足感を与えるが、ブルワーが極めるのは難しい。バイエルン州産のものを含む多くのドゥンケルは甘すぎてうんざりする。美味しいドゥンケルは絶対に甘すぎず、仮に1リットル飲んだとしても、飽きることはないだろう。
日本でも良い状態で飲めるドイツ産のものは、ヴェルテンブルガー・クロスター・バロック・ドゥンケルとプランク・エクスポート・ドゥンケルだ。前者は通常瓶で入手でき、後者は樽生で試してもらいたい。アインガー・アルトバイリッシュ・ドゥンケルは、素晴らしいビールでフェスティバルでたまに見かけることができる。国内でつくられているものだと、小樽ドンケルが典型的な例だ。濃い琥珀色で、パンのような麦芽とカラメルとトーストの風味が感じられる。また、芳潤だが甘くはなく、後味が爽やかかつキリッとしていて、何杯も飲みたくなる。岡山の独歩デュンケルは木の実とコクのあるカラメルの風味が特徴的だが、こちらもまた甘さを控えている。他にもいくつかの日本のブルワリーがドゥンケルをつくっているが、全体的に見て日本ではあまり人気のスタイルではない。
国内でつくられているものだと、小樽ドンケルが典型的な例だ。濃い琥珀色で、パンのような麦芽とカラメルとトーストの風味が感じられる。また、芳潤だが甘くはなく、後味が爽やかかつキリッとしていて、何杯も飲みたくなる。岡山の独歩デュンケルは木の実とコクのあるカラメルの風味が特徴的だが、こちらもまた甘さを控えている。他にもいくつかの日本のブルワリーがドゥンケルをつくっているが、全体的に見て日本ではあまり人気のスタイルではない。
チェコ共和国のボヘミアにはドイツのスタイルとは全く異なる独自のダークラガーがある。名前が類似した濃色という意味のトマヴィーと、黒色という意味のチェルニーだ。ドゥンケルとシュヴァルツにははっきりとした違いがあるのに対し、ボヘミアではこの二つの特徴の違いには一貫性がない。そればかりか、甘くクリーミーなチョコレートからキリッとした香ばしいコーヒーの味わいまで、特徴が広範囲にわたる。一般的に、チェコのダークラガーの色は暗褐色から黒色である。カラメルの風味を持つこともあるが、通常はダークチョコレート、コーヒー、クリームの特徴があり、芳潤な味わいだ。また、トースト、木の実、濃色の果物の風味を持っていることもある。ドイツの濃色ビールよりもポップが強く利いている傾向があり、麦芽香が豊かで、しばしばダイアセチル(訳者註:ビールにバターのような香りを与える)を少量または少し多めに含んでいる。このバターのような香りが適量であると、芳潤な麦芽の風味をもたらし、ダークライ麦のバターパンを食べたような気分になる。その香りが麦芽を制圧しない限り、ダイアセチルはオフフレーバーとしてはみなされない。

チェコのダークラガーの王様は、プラハのウ・フレクー・ブリューパブが1499年から醸造していると主張するビールである。甘く、クリーミーで、ダークチョコレート、クリーム、コーラ、そしてベリーの風味があり、後味はキリッとして、コーヒーの風味が残る。これは、プラハを訪れた際は必ず飲まなければならないビールだが、品質に一貫性がなく、プラハの中で最高のトマヴィーとは呼べない。おそらく樽生で飲むベルナルド・チェルニーの方が優れているが、日本で手軽に入手できるボトルにはがっかりさせられる。もちろん試してみるべきだが、熟成と酸化がし過ぎている傾向がある。マトゥシカ・トマヴィーも良い例で、レーズン、プラム、ベリーの特徴があり、チョコレート感とフルーティーさがしっかりと感じられる。運が良ければ、日本のビールフェスティバルでお目にかかれるかもしれない。
日本では、日本海倶楽部のダークラガーが本格的なトマヴィーである。艶やかな黒色で、パンとダークチョコレートの風味がある。また麦芽の香りが豊かで、クリーミーで満腹感をもたらすが、とりわけ甘くはない。限定版は、オレンジとコリアンダー、またはソラチエースのホップを使っており、非常に優れている。以前、日本海倶楽部でブルワーだったジリ・コティネックは現在、富山県のコボブルーワリーで醸造しており、今後ダークラガーがリリースされるのを期待している。他にチェコスタイルの日本産のダークビールは、横浜ベイブルーイングのベイダークがある。暗褐色で、泡は黄褐色だ。ダークチョコレート、トーストした黒パン、コーヒー、わずかなベリーの麦芽香が感じられる。芳潤だがキリッとしており、驚くほど軽く爽やかさがある。
伝統的な欧州のダークラガーは、木樽熟成のインペリアルスタウトまたは、コーヒースタウト、チョコレートスタウト、バニラペイストリースタウトほど派手さはない。したがって、クラフトビール業界で注目を浴びることははるかに少ない。必ずしもあっと言わせることはないが、爽やかで元気づけてくれるような繊細なダークビールだ。しかしながら、よく出来ているものは、精巧で美味しい芳潤な麦芽の味わいがうまく表現されている。様々な食べ物と合い、杯が進む。多くの日本のクラフトブルワリーがこのスタイルのビールを極めている。秋に是非飲んではいかがだろうか。寒い時期にうってつけだ。


