ウェス・ラシュリー(福岡クラフト醸造所 ブリュワー)
約16年前、シアトルに住みはじめたばかりのころ、アパートの近くにあったクラフトビール専門のバーで、私は初めてアメリカンIPAを口にした。当時クラフトビールを飲むのも初めてで、そのビールの味は予想していたものとは異なり、私の未熟な味覚にとってそれは、ニッケル(金属)のようなひどい味に感じられた。しかし、それでも私はクラフトビールを敬遠することはなかった。その後バーに何度も足を運び、たくさんのビールを飲むうちに、少しずつクラフトビールを楽しめるようになっていった。私自身についての話はさておき、ここからは本稿の主題であるアメリカンIPAについて話していこう。
アメリカンIPAは米国で、いや世界で最も人気のあるビールのスタイルの一つである。これは、イングリッシュIPAの米国版であり、もちろん米国の原料を使用しており、英国版よりボディは軽く、ホップが強調されている。このスタイルの特徴は、ほどよい麦芽の存在感と西海岸のホップ(別名「Cホップ」、詳しくは後述)の使用である。それでは、アメリカンIPAというスタイルはいつ生まれたのだろうか?
ビール審査員認定プログラム(BJCP)のスタイルガイドラインによれば、最初のアメリカンIPA(当時はIPAと呼ばれていなかったが)は、1975年にサンフランシスコのアンカー・ブルーイングが醸造した「リバティエール」である。このビールは、アンカーが営業を終了した2023年の夏まで醸造され、カスケードホップを使用した最初のビールの一つである。アンカーの前オーナーであるフリッツ・メイタグは、二次発酵中にホップをメッシュの袋に入れてビールをドライホッピングするという、昔ながらの手法を導入した。今日では、多くの醸造所が採用している技術である。そのほかのこのスタイルの初期の重要な草分け的存在としては、シエラネバダの「セレブレーション」(1981年~現在)やバート・グラントの「インディア・ペールエール」(1983年~2004年)などがあげられる。
初期のバージョンでは、「Cホップ(別名:C系ホップ)」と呼ばれる柑橘系あるいは松ヤニのような特徴をもつ米国のホップが使用されていた。これらのホップは頭文字に”C”がつき、その代表がChinook(チヌーク)、Centennial(センテニアル)、Cascade(カスケード)、Columbus(コロンバス)の4品種である。ここで現代に話を移そう。最近では、このスタイルのビールに異なるユニークなホップの風味や香りをもたらすために、改良された米国品種や、オーストラリア産のギャラクシーのような米国以外の新品種が使用されている。しかし、それは一体どのような味、香り、見た目、口当たりになるのだろうか?
風味と香りは、米国産のホップ由来の柑橘、花、そして松のような特徴があるといえる。苦味は一般的に中程度から高めで、麦芽と強烈なホップの風味のバランスがよい。色は黄色から橙色で、口当たりはミディアムボディ(中程度の重さ)、炭酸は中程度から高めである。また、アルコール度数は5.5%から7.2%の間だ。
このスタイルは今や、ここ日本を含む世界中で醸造されている。日本で定評のあるアメリカンIPAスタイルのビールには、伊勢角屋麦酒の「ねこにひき」、ウエストコーストブルーイングの「スターウォッチャー(WCIPA)」、箕面ビールの「W-IPA」、そして志賀高原ビールの「スノーモンキー」がある。(実際のところ、箕面ビールのW-IPAはアルコール度数がはるかに高い「ダブルIPA」であるが、その特性はアメリカンIPAに非常に似ている)
アメリカンIPAは、最初の登場から長い道のりを歩んできた。このスタイルはクラフトビール業界の様相を一変させ、ヘイジーIPA、ニューイングランドIPA、ミルクシェイクIPA、ウエストコーストIPAといった数多くのバリエーションを生み出してきた。醸造所が手直しや微調整を加えたり、新しい品種のホップを加えたりすることで、このスタイルは常に進化し、新たな領域に進んでいる。今後、どのようなアメリカンIPAが登場するのか楽しみである。


