トム・エインズワース(オーストラリア出身のエインズワースは京都ビアラボの共同創業者であり醸造長である。本誌第35号参照)
灼熱の太陽が照りつける中、汗だくになりながらグーグルマップで一番近いビアバーの場所を確認しつつ、カラッカラの喉を潤してくれるであろうあの一杯を求めてさまよう……そんな経験はしたことあるだろうか? ようやく店に着き、腰を下ろしてグビグビ飲めるビールを頼もうと考えていると、渡されたメニューにはDDHTIPA(ダブルドライホップ・トリプルIPA)、特濃ミルクシェイク、フルーツたっぷりバニラ味のPOPサワー、漆黒の黒より黒いインペリアルスタウトが並んでいるという絶望的な状況。しかたなく、いかにも乳糖入りビールが好きそうな店員の顔を見上げ、声をようやく絞り出す。「あのーすみません、水を一杯いただけますか? あとでビール頼みますんで……」
すると、店員がひと言「注文しないと水は出せません。出てってください」
恐ろしい状況ですが心配しないでください、ビール遠征隊の皆さま。答えはここにあります。いや、ここにずっとありました! それは「マイルド」です。90年代に人気は下火になりましたが、歴史が深く今でもコアなファンが多く、現在でも英国を中心にいくつかの国でつくられています。
マイルドはビターやESB、ブラウンなどの英国系統のビールで、面白い歴史があります。ちなみに「マイルド」とは、熟成されたエールと区別するために用いられた言葉で、新鮮で長くは熟成されていないビールを指します。例としてはマイルドポーター、マイルドビターなど。当時のマイルドはアルコールの比重が1.050から1.070ほどで、アルコール度数は7%以下でした。そして第一次世界大戦中に物資不足により、政府の要請でビールメーカーは比重を最大1.030に、そしてアルコール度数を低くするよう制限されました。
これにより、マイルドのアルコール度数は3%以下になり、一時は絶滅の危機に瀕しながらも、低アルコールのまま現代まで引き継がれています。現代のマイルドはアルコール度数3~4%で、色は基本的に濃色からとても濃い濃色、コクのある麦芽の味が強めながらも飲みやすいビールです。深い複雑な味と飲みやすさのユニークなバランスが、マイルドが「満足感を与えるユニークなビール」である所以です。
店から追い出されて、水にもありつけないと思っていると、タップが打ちぬかれて新しいビールがつながっている。それは濃色で複雑で完成された味のダークマイルド、3.5%。カラメル色の泡に包まれた豊かで甘美な麦芽の香りが、やわらかな炭酸で弾けて鼻をくすぐる。一口飲んだと思ったらパイントがなくなるほど新鮮でさわやか。それは好奇心の強いビールファンをも満足させる味わい。
マイルドはペール麦芽で醸されたあとクリスタル麦芽が投入され、ダークマイルドの場合はチョコレート麦芽やブラック麦芽が追加されます。英国スタイルのビールなので、KBLではダークマイルドをすべて英国産のモルトでつくります。英国のシンプソンズ社から購入したゴールデンプロミスをベースにして、DRC®、アロマティック麦芽とブラック麦芽を使用します。ボディをしっかりさせるために水を少し硬水にして15IBU(国際苦味単位)になるようホップを加えます。早い段階で苦味付けのためにアロマホップを慎重に使用するのがこのスタイルの特徴で、マイルドな苦味に華やかな香りが添えられます。
出来上がりは、ブラックベリーなどのダークフルーツ、イチジク、トーストとほのかなチョコレートに強めのナッツの香りが漂います。そしてアルコール度数が低いながら、さわやかで濃厚な味わい。KBLのブルーパブにも定期的につながっています。「起死回生ダークマイルド」(ブリティッシュダークマイルド)を見つけたら飲んでみてください。洗練された大人ならパイントで飲みましょう。
英国の田舎以外ではパイントのマイルドを探すのは難しいかもしれません。もし「シークストン(Theakston)」を見つけたら店にある分を全部飲んじゃってください! あとは近くのブルーパブにマイルドをつくるようお願いするのも手です。京都近辺では与謝野町で収穫されたホップを使用した京都醸造の「ペールマイルド」(現在は製造中止)や、Y.マーケットが香辛料を加えたマイルドをかなり前につくったと聞いています。とりあえずは、私たちのブルーパブでこの美味しい濃色の液体を近々お目見えさせる予定です。一度死んだビールは、二度は死にません!


