高知といえば何を思い浮かべるかと日本人に聞けば、迷わずこの2つの答えが返ってくるだろう。それは、坂本龍馬と酒豪である。高知出身の歴史的人物、坂本龍馬(1836-1867)の魂は、今日まで生き続けている。県内のどこに行っても彼の存在を感じることができ、マドンナやプリンスのように、彼はみんなから「龍馬」と親しみを込めてファーストネームで呼ばれている。
龍馬の先祖はもともとは商人で、質屋や酒造業を営んで富を築き、その富で購入したのが郷士株(下級武士の身分)だった。龍馬は武士の家に生まれ、のちに今でも語り継がれる伝説となったが、酒造りが一役買っていたというのはまた魅力的な話だ。土佐藩(現在の高知県)の歴代藩主たちは愛飲家だったといわれているが、彼らの子孫はその伝統を受け継いでいる。夜の街に繰り出せば、それはあながち間違っていないことに気づくだろう。
筆者が十年以上前に高知市を初めて訪れた際、夜の歓楽街を探すのに少し時間がかかったことを今でも覚えている。高知駅が町の探索の中心拠点になると思い込んで、高知駅近くのホテルを予約してしまったのだ。到着した最初の感想は、「ああ、この町は閑散としているな!」であった。しかし、ホテルから15分ほど歩き、はりまや・帯屋町エリアに到着したとき、その考えがまったくの誤解であったことにすぐに気づいた。その日は平日の夜であったのにもかかわらず、町は活気に満ち溢れていた。約600メートルのアーケード商店街の両脇には、数えきれないほどのバーやレストランが軒を連ねている。あとでおすすめのお店をいくつか紹介するが、高知県民たちとの宴会を始める前に、少し歴史を掘り下げてみよう。
土佐は、1600年のかの有名な関ヶ原の戦いで天下が変わるまで、長宗我部氏によって統治されていた。不運なことに、長宗我部大名が属した西軍は、日本で最も名高い将軍、徳川家康率いる東軍に敗れてしまった。その結果、長宗我部氏は改易処分(身分や領地を没収されること)を受け、よそ者(現在の愛知県出身)である山内一豊にその領地は与えられた。この決定は、長宗我部氏の旧臣や、高知の住民にも受け入れられず、その後数世紀にわたって反乱や暗殺が頻発した。やがて土佐藩は、徳川幕府の滅亡において大きな役割を果たすこととなる。その先駆けとなるのが、革命家、坂本龍馬である。
高知駅前では、龍馬と、同じく地元の英雄である武市半平太と中岡慎太郎の三人の志士の像が私たちを出迎えてくれる。龍馬像は、駅から車で30分ほどの距離にある桂浜でも見ることができる。この偉大な人物、坂本龍馬の歴史を深く知るには、この桂浜エリアにある「坂本龍馬記念館」を訪れることをおすすめする。館内では、龍馬が下級武士から幕府滅亡の立役者の一人になるまでの軌跡を紹介している。龍馬は、敵対していた薩摩藩(鹿児島を拠点とする)と長州藩(山口)の密約を取りまとめ、結果、徳川軍は長州の勢力によって苦い敗北を喫した。このことで、その後の幕府滅亡の立役者となった龍馬の名声は一気に広まったのだ。しかし、不幸にも龍馬は復讐に燃える幕府の手先によって31歳の若さで京都で暗殺された。それは、彼の夢であった天皇への政権の返還(1868年)が実現するわずか1年前のことであった。記念館には龍馬と彼の仲間たちの武器、巻物、美術品などが展示され、彼らの戦いを紹介する動画も放映されている。
記念館では資料がわかりやすく展示されており、龍馬の興味深い歴史を学ぶには最適な場所だ。彼のことをもっと知りたい熱狂的なファンは、規模は小さくなるが、市内中心部に近い場所に位置する「龍馬の生まれたまち記念館」にも訪れるとよいだろう。お土産を買うなら、龍馬グッズはいかがだろうか? 龍馬の親戚が酒造業を営んでいたということもあり、龍馬をテーマにした日本酒やビールがいたるところで見られ、お土産用の龍馬の盃も売られている。また、酒類に限らず、彼をモチーフとした商品は、カプチーノ、ポテトチップス、ハンバーガーなど、ありとあらゆるものに広がっている。桂浜にある商業施設「海のテラス」では、このようなお土産をたくさん取り揃えている。もしこの英雄が自分の名前を著作権登録していたならば、彼の子孫は今ごろとても裕福になっていただろう。

市街地に戻ると、高知城が繁華街の西端にそびえ立っている。その天守と本丸御殿は、400年以上の年月を経ても、元の形を保っている。築城が命じられたのは1601年、山内一豊が土佐一国を拝領して間もなくのことだった。今では高知公園の中心的存在となり、一般に公開されている。これには龍馬も誇りに思っていることだろう。読者のみなさんには、夜の外出前に、1時間ほど時間を確保して、軽い運動がてら敷地内を散策することをおすすめしたい。城の最上階からは、周囲の街や山々を見渡すことができる。城にまつわる歴史的資料や工芸品の大半は、公園入り口の向かいにあるモダンな高知城歴史博物館に収蔵され、一般公開されている。
市内屈指の眺望を求めるのであれば、市街地の東に位置する標高139メートルの五台山公園をおすすめする。五台山の頂上には、写真映えのする竹林寺がある。千年以上の歴史のある寺で、五重塔がある。この寺は、四国八十八箇所霊場に指定されており、お遍路巡りの札所の一つとなっている。高知旅行中、特にここ五台山公園の付近では、白衣と菅笠を身に着け、金剛杖を手にしたお遍路さんたちをよく見かけるだろう。心の平穏を求めるためであれ、田園風景を見るためであれ、または単にバケットリスト(生きている間に自分がやりたいことをリスト化したもの)に書き留めた目標を達成するためであれ、筆者は彼らの努力に賛辞を送りたい。数日間しか四国に滞在できないビール雑誌のライターとしては、バー巡礼や美食を求める冒険のほうが自身の使命に合っていた。

高知城から数ブロック離れたひろめ市場は、そのような冒険の出発点として最適な場所だ。屋根のあるこの市場には、県内のグルメに特化した約60軒の小さな屋台や飲み屋が軒を連ねている。飲食スペースはフードコートのようになっており、好きな店で購入したフードやドリンクを自分で確保した共有の席で飲み食いすることができる。市場はいつも活気に満ちており、同じ席に座った見知らぬ人たちとすぐに飲み仲間になるかもしれない。
鰹のタタキは、高知で最も人気のある料理だ。ひろめ市場には鰹のタタキを販売している店舗がたくさんあり、串に刺した鰹を藁で焚いた炎で炙っているところを目の前で見ることもできる。粗塩、生の玉ねぎスライス、乾燥ニンニクチップをまぶした鰹のタタキは、キリッとしたラガーや軽くて辛口な日本酒(高知で好まれるスタイル)によく合う。これらの飲み物に合うその他の地元料理には、ウツボの唐揚げ、青のりの天ぷら、いも天(さつまいもの天ぷら)、そしてクジラの刺身やクジラの唐揚げなどがある。

高知には、酔鯨や司牡丹を含む18の酒蔵があり、これはクラフトビール醸造所(現在5社)の数を大きく上回る。酔鯨にはおしゃれな新しい酒蔵兼ショップがあり、酒蔵見学や試飲もできる。 高知の市街地からは車で40分ほどかかるが、彼らのファンにとっては訪れる価値が十分にある。しかし、素晴らしい日本酒体験をするために、市街地を離れる必要はない。 帯屋町の商店街から道を一本入ったところにある「土佐酒バル」は、高知県内の全18の酒蔵から約100種類の日本酒を取り揃えている。選択肢が多すぎて迷ってしまう? そんな時は、3種類の利き酒セットの中から自分の好みに合ったものを試すことをおすすめする。日本酒と相性抜群の美味しいおつまみの数々が、体験をさらに充実させてくれる。土佐酒バルの2軒隣にある「うますし」は、地元の新鮮な魚介類、土佐鴨、高知県産の日本酒、自然派ワインに重点を置いた上品な寿司店だ。この高級寿司店では、絶品のおまかせコース(要予約)を提供しており、手厚いおもてなしを体験できる。
クラフトビールをお探しなら、帯屋町の路地裏にある「Kochi Beer Laboratory」を訪れてもらいたい。カウンター席のみの居心地の良いバーで、5つあるタップには、主に四国産のクラフトビールがつながっている。近隣のアーケード商店街にはアイリッシュパブ「アモンティラード」がある。ギネスの生ビールはもちろん、クラフトビールのタップも5つあり、冷蔵庫には輸入物の缶やボトルも用意されている。食べ物のメニューは多様で、アイルランド料理とは少し異なり、ステーキ、ピザ、パスタなどがある。もし時間があれば、「SOUTH HORIZON BREWING」(本号の特集を参照)を午後に訪れることをおすすめする。ただし、市街地から車で20分ほどの距離にあるため、タクシーかお酒を飲まない運転手が必要だ(バスはあまり良い選択肢とはいえない)。筆者は彼らのビールを求めに訪れたが、高級料理や自家焙煎コーヒーも提供され、屋外の広々とした空間には多数のテラス席もあり、お酒を飲まない人でも十分に楽しむことができる。
高知の人たちが夜遅くまで宴会を楽しむというイメージは、十分な根拠に基づいていることがわかった。高知を訪れた人は、夜の街に繰り出すと、「郷に入れば郷に従え」の教えを身にしみて感じることだろう。筆者が、3つ目の駅(3軒目)で宴会列車から飛び降りることになるかもしれないと言ったら、周りからは冗談半分で冷やかな目で見られた。夜の締めくくりには、「屋台安兵衛」がぴったりである(ラストオーダーは午前2時半前後)。駐車場内に店を構える飾り気のない屋台で、値段も安く、毎晩賑わっている。ここの名物はパリパリの焼き餃子だが、日本酒や瓶ビールに合うラーメンやおでんもある。
高知観光を存分に楽しむには、大きなイベントが開催される時期に訪れることをおすすめする。3月初旬には、高知市で土佐の「おきゃく」が開催される。これは、高知の街が宴会場となり、高知の料理や酒を楽しむ1週間にわたる祭りだ。帯屋町のアーケード商店街にはテーブルがずらりと並べられ、巨大な宴会場と化する。飲酒の盛んな町にふさわしく、この祭りには「ベロベロの神様」と名付けられた裸のマスコットがいる。神様の見守る中、新たな友情が芽生え、祭りに訪れた人たちは未来の再会を誓って盃を交わす。ドンチャン騒ぎになることは間違いない。
「よさこい祭り」は8月の第2週ごろに開催される。飲酒に重きを置いた祭りではないが、路上で繰り広げられる大規模な祭りだ。色とりどりの法被や浴衣に身を包んだダンスチームが、土佐の民謡「よさこい節」の曲に合わせて街中を練り歩く。
1950年代に高知で始まったこのエネルギッシュな祭りは、日本全国、そして世界へと広まっていった。ダンスチームが練り歩く道沿いには屋台が軒を連ね、祭りは夜まで続く。
高知県は自然も豊富だということに触れておかなければならない。県庁所在地である高知市は広大な田園地帯への旅の出発点としては最適だ(車または自転車が必要)。高知市の西側を流れる透明で青みがかった美しい仁淀川は、緑に囲まれた中でリフレッシュするのには最高の場所だ。この川の上流や支流に沿ってハイキング、カヤック、SUP(訳注:スタンドアップパドルボードの略)、キャニオニング(訳注:カヌーやボートに乗らず自分の体で川下りを楽しむスポーツ)を楽しむ1日は、ビールを飲むためのカロリー消費にはもってこいである。安居渓谷と中津渓谷エリアは、これらのアウトドアアクティビティを楽しむのにおすすめの場所である。どちらにもキャンプ場とゲストハウスがあり、郊外で静かな一夜を過ごすことができる。特に興味深いのは、Mukai Craft Brewingの「Blue Brew Taproom」が中津峡エリアのキャンプ場の近くにあることだ。オーナー兼醸造家の向井ケンは日系アメリカ人で、妻の正子とともに、教師として勤務していたロサンゼルスから移住してきた。 Mukai Craft Brewingのホームページには、「ケンの趣味は自家製ビールをつくることで、正子の趣味はケンの自家製ビールを飲むことだった」と面白おかしく書かれている。この地域での川遊びに欠かせないきれいな山の水は、向井のビールにも使われている。キャニオニングやパックラフト(訳注:バックパックに収納できるほどの軽さとコンパクト性を合わせもつ空気注入式のカヤック)などのアウトドアアクティビティツアーを提供している「仁淀アドベンチャー」は、Blue Brew Taproomと同じエリアにあり、川遊びの後にご褒美のクラフトビールをすぐに楽しむことができる。
本稿で紹介した以外の情報については、大量の有益な情報を提供している県の公式観光ウェブサイト(日本語:kochi-tabi.jp、多言語:visitkochijapan.com)を確認することをおすすめする。ひろめ市場にいる親切な地元民たちにアドバイスを求めるのもいいかもしれない。飲み屋をハシゴする際に、地元の 「ガイド」が同行することになっても驚かないでほしい。いつの間にか「高知家」の一員となり、新たにできた兄弟姉妹と再会するために、次の旅行計画を立てることになるだろう。


