本号では、再び遠心分離機をテーマに取り上げる。ただし今回は、機械そのものの仕組みを解説するのではなく、このテクノロジーを実際にどのように活用しているのかに焦点を当て、経験豊富なブルワーに話を聞いた。今回取材に応じてくれたのは、オーストラリアのシドニーにあるワンドロップブルーイング(本誌60号で特集)でヘッドブルワーを務めるニック・カルダー=ショールズだ。彼と彼のチームは、日本でも導入されているGEA社の遠心分離機を活用し、クリーンフュージョンと呼ばれる新たな醸造技術を開発した。この手法は、彼らのIPA研究開発プログラムにおいて、驚くべき成果を上げており、ファンからも高く評価されている。この革新的な技術が、日本にも広がっていくことを期待したい。
クリーンフュージョンがどのように機能するのか、基本的な工程を教えてください。
ニック: これは、発酵の終わりに遠心分離機を使ってビールをホップの入ったタンクに移す工程で、2つのタンクを使います。1つ目のタンクでは一次発酵がおこなわれ、発酵が完了したビールを遠心分離機を使って2つ目のタンクに移します。この時、酵母を取り除ける程度のゆっくりとした速度で移します(どんなビールに仕上げたいかによっては、あえて酵母を少し残すこともあります)。2つ目のタンクでは、酸素を除去したうえで、ドライホッピングをおこないます。ホップの処理方法は自由で、攪拌や再循環など、目的に応じてさまざまな手法が選ばれます。そして、ドライホッピング後のビールが、時間や風味、その他の指標において理想的な状態になったら、再び遠心分離機を使ってブライトタンク(訳註:ビール製造工程の最終段階で使われる、仕上げ用の貯蔵タンク)へと移します。この工程でホップの残留物などを取り除きます。つまり、ビールは「発酵終了→ドライホッピング→ブライトタンク」という3つの段階を経て、遠心分離は2回おこなわれます。この工程には多くの利点があります。
理論上は遠心分離機を使わなくても同じことはできますが、時間がかかるし、ミスも起こりやすいんですよね?
そうですね。コールドクラッシュをおこなったり、清澄剤を加えたりすることも可能ですが、ここで重要なのは、ホップクリープを防げること、そして同じ効果を得るために使用するホップの量を抑えられることです。これらは、遠心分離機を使うことで得られる大きなメリットの一部です。また、2つ目のタンク内のビール全体の酵母細胞数を、ある基準以下に保つことも重要です。例えば、ホップを加えた後に攪拌や再循環をおこなうと、タンク内から採取した検査用サンプルでは酵母数が少なく見えても、タンク全体をかき混ぜることで酵母細胞数が再び上昇する可能性があります。遠心分離機を使えば、タンク内のビール全体を均一かつ一定の酵母細胞数に保つことができます。私たちの基準では、酵母細胞数は100万セル/ミリリットルです。これは再発酵を引き起こすほどの量ではありませんが、バイオトランスフォーメーションを促すには十分な濃度です。もちろん、遠心分離機がなくても同様のことは可能ですが、やるべきことは変わりません。例えば、清澄剤を用いて、ラッキングアームを通して移し、酵母やホップの残留物といった固形物を落としていくわけです。いずれにしても最終的な目標は、仕上がったビールをホップ入りの新しいタンクに移す際に、タンク内すべてのビールを一定以下の酵母細胞数に抑えることです。これは、同じタンク内でおこなうことはできません。
とはいえ、日本の多くのブルワリーにとっては、遠心分離機のコストが大きなハードルになっています……
遠心分離機を持たないブルワリーでは、時間に頼るしかありません。ビール中の酵母やホップの残留物などの固形物を自然に沈殿させて上澄みをクリアにするための待機時間を、仕込みスケジュールに組み込む必要があります。遠心分離機を使えば、ストークスの法則(訳註:粒子が沈む速度に関する法則)を応用することで、いわば重力を強化し、清澄の工程を大幅に短縮できます。もちろん、低温で静置するなどして時間をかければ、遠心分離機を使った時と同じようにビールを清澄させることは可能ですが、かなりの時間が必要になります。
それに、遠心分離機を使えばビールの損失も少なくなりますよね?
ホップの使用量を控えたビールを仕込む場合、通常はタンク間の移送時に捨ててしまうタンク底部に残った沈殿物を含む液体まで有効活用できるようになります。これにより、最終的に得られるビールの量が増え、結果としてコスト削減につながります。ホップを多く使ったビールの場合も、別のメリットがあります(詳しくは後ほど説明します)。さらに、クリーンフュージョンでは多くのブルワリーがおこなっているような発酵中のドライホッピングをおこないません。つまり、発酵タンクからビールを移す前に、必要な分だけ酵母を回収できるのです。ホップを多用したビールからでも酵母を回収して再利用できれば、コストを大幅に下げることができます。発酵中にドライホッピングをおこなうブルワリーは、醸造上、望ましくない方法とされているため、再利用目的で酵母を回収することはありません。しかし、クリーンフュージョンでは場合によって、2種類のビールで酵母を10世代にわたって使い回すことも可能です。つまり、1回の酵母投入で20バッチものビールを仕込める計算になります。酵母のコストを20分の1に抑えられるというのは、非常に大きなメリットです。
ちょっとマニアックな話になってきましたね(笑)。ミルセンは、ほとんどすべてのホップに多く含まれている代表的な精油成分ですが、厳密に言えばビールには溶けません。つまり、ビールの中に溶解することはありませんが、滞留することは可能です。これは、ビールの粘性や酵母の細胞数によってホップが浮遊した状態で保たれているためです。そこで、一次発酵が終わったクリーンなビールを1つ目のタンクから、ホップが入った2つ目にタンク内へと移すと、ホップオイルはビールの粘性によってその中に浮いた状態で保たれます。その後、遠心分離機を使ってブライトタンクに移す際に、ホップのかすなどの植物性の固形物は取り除かれます。私たちは、これまでのビールづくりの中で、発酵後に酵母を遠心分離や清澄剤、または自然沈殿を通して取り除いた際に、ホップオイルや香り成分まで一緒に失われてしまうことがあるとわかってきました。一方、フュージョン方式を用いた比較実験では、ホップの使用量を20%削減できました。これは、ホップオイルが酵母などに付着したままビール中に浮遊している状態を保つことで、後の工程でそうした香り成分が一緒に除去されてしまうのを防げたからです。その結果、より強いホップの特徴がビールにしっかりと残るようになりました。最終的なビールの量自体は大きく変わらないかもしれませんが、酵母の再利用が可能になり、なおかつホップの使用量を抑えられる点は大きなメリットです。ホップはビールづくりにおいて2番目に高価な原料ですから、こうした効率化には大きな意義があります。
つまり、遠心分離機は導入コストも回収できるようになるんですね。
そうですね。同じ商品をつくる場合でも、コストを抑えることができます。また、ホップの個性が際立つビールを目指す場合でも、同じコストでよりホップ感の強い仕上がりにすることが可能です。もう一つ重要なのは、ビールがホップと接している時間が長くなるほど、ホップ由来の植物成分からポリフェノールが多く抽出されてしまい、ビールにざらつきやエグ味といった雑味が出やすくなるという点です。こうした品質の変化を防ぐには、工程のタイミングを正確にコントロールできることが非常に重要です。例えば、6時間ごとにビールをテイスティングし、植物っぽさやポリフェノール由来の雑味が感じられ始めたタイミングで、すぐに遠心分離機を使ってタンクからビールを直接ブライトタンクへ移すことができます。つまり、酵母を再利用したり、ホップの使用量を減らしたりすることでコストや環境負荷を抑えられるだけでなく、狙ったホップの風味を的確に引き出すことができるのです。
最近では、ホップの特徴を前面に押し出したビールが人気で、ホップがブルワーにとって課題になる場面も増えているかと思います。この点について、どうお考えですか?
ここ数年、ホップ農家のあいだで、ホップを低温でキルニング(訳註:ホップを熱処理で乾燥させる工程)する動きが見られます。その結果、ホップに含まれる酵素の活性が高まり、いわゆるホップクリープが起こりやすくなっています。現在のビールづくりでは、ドライホッピングによってある程度の酵素反応が起こるのは避けられません。大切なのは、それによって再発酵が起こらないように、しっかりとコントロールすることです。ホップクリープの原因となる酵素は活性を保っていて、ビールの中で作用し続けています。しかし、私たちの製法では、製品中に酵母が残らないようにしているため、たとえ酵素が活動していても、それによって再発酵が起きることはありません。つまり、ホップクリープを完全に排除できているのです。この状態を保つため、私たちは酵母細胞数をミリリットルあたり100万個に保つことを徹底しています。工程の第2段階に入る頃には、酵母の量がすでに再発酵を引き起こすほど残っていません。この方法により、私たちはすべての製品においてホップクリープの発生を防ぐことに成功しています。特にヘイジーIPAをつくるブルワリーにとって、これは大きな課題の一つです。こうした結果は、官能評価(味や香りのテイスティング)だけでなく、ラボでの分析にもとづくものです。私たち自身のラボだけでなく、外部の研究機関や、世界中の大手ブルワリーとの共同研究を通じても検証してきました。私たちは、自社の工程がどのように機能しているのかを徹底的に調べ、工程の後半で再発酵やアルコール度数の上昇といった影響が出ていないかも確認しています。今では、私たちブルワーが自分たちの製品を完全にコントロールできる状態にあるのです。
ここで、酵母細胞数をミリリットルあたり100万個という基準に設定した理由について、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?
ビールをつくる際には、適切な量の酵母が必要で、その量を算出するための計算方法も存在してます。酵母の投入量は、生成されるエステル(フルーティーな香り)など、ビールの風味に影響します。酵母に関する科学的研究は、ビールの発酵に関してすでにかなり進んでいます。酵母細胞数が1ミリリットルあたり100万個まで減ると、バイオトランスフォーメーション(酵母による香りや風味の変化)はある程度起こりますが、ダイアセチルが生成され続けたり、再吸収されずに残るような心配はほどんどありません。実際、そうした残留したダイアセチルが、ホップクリープの一因になることもあります。私たちは以前、酵母細胞数を1ミリリットルあたり500万個の状態で試したことがありますが、ホップクリープがゆっくりと進行している様子が見られました。また、200万個に減らしても、わずかながら同様の反応が確認されました。そのまま発酵を続けてビールを仕上げたこともありましたが、問題はホップとの接触時間が長くなりすぎていたことでした。こうした試行錯誤を経て、私たちは酵母細胞数を100万個に設定するという最適な基準にたどり着きました。1つ目のタンクから2つ目のタンクへビールを移す際に、酵母細胞数を100万個/ミリリットルに調整し、ホップとの接触時間を48時間に設定し、その後再び遠心分離機にかけます。こうすることで、酵母の量は非常に少なくなり、ブライトタンクに移る頃には、酵母は完全に取り除かれている状態になります。もし、1つ目のタンクから2つ目のタンクに移す際に500万個の酵母が残っていると、その後の工程で細胞が増殖したり、ホップクリープの影響で酵母が残ってしまう可能性があります。
2つ目のタンクでおこなうドライホッピングにはさまざま方法がありますが、これまでにどのような方法を試されましたか? ちなみに、日本では今でもホールホップ(葉のままのホップ)を使ってドライホッピングしているブルワーも少なくないようです。
おお、なるほど(笑)。クリーンフュージョンで、私たちが最も試行錯誤を重ねてきたのは温度です。温度は、ホップオイルの溶解度やポリフェノールの抽出に直接関係しています。ホップオイルをしっかりビールに溶け込ませるには、ある程度の時間が必要ですが、長く置きすぎると、今度はポリフェノール由来の雑味やエグ味が出てしまいます。その見極めには、非常に繊細なバランスが求められます。具体的な工程としては、まずは2つ目のタンクの上部を開けてホップペレットを投入し、そこへ(発酵を終えた)ビールを酵母を取り除きながら移します。その後、酸素を抜き、窒素(あるいは他の不活性ガス)で撹拌します。こうしてホップをしっかりビールに行き渡らせます。理想的なのは、ホップニックのようなホップ投入装置があることです。こうした装置があれば、タンク内の空気をあらかじめ抜いたうえでホップを加えることができます。タンクをビールで満たしてからホップを投入し、その後ビールを引き抜く、といった使い方が可能です。私たちは再循環による方法も試してみましたが、思った以上にポリフェノール由来の雑味が出てしまうことがわかりました。もしホップニックのようなホップ投入装置がある場合は、2つ目のタンクにビールを移し、ホップを循環させながら好みの状態になるまで調整し、満足のいくところで次の工程に進むといった流れでおこないます。
本日は貴重なお時間ありがとうございました。
ワンドロップはLaff Internationalによって輸入されています: http://laff-il.com


