日本にクラフトビールが誕生してから30年。これまで、醸造とは無縁だった企業がビールづくりに乗り出す例は数多く見られてきた。ホテル、農業法人、リゾート施設、酒類卸業者など、その業種はさまざまである。ならば、鉄工所が参入しても不思議ではない。実際、北海鉄工所は数年前にこの業界に参入した。その経緯を詳しく探るべく、今回我々は、同社のクラフトビール事業を担うチームに質問を投げかけた。答えてくれたのは、ヘッドブルワーの山谷氏、常務取締役の石橋氏、販売部門長の秦氏、そして従業員の上田氏である。
貴社は、長年にわたり鏡板の製造を手がけてこられたと伺っています。まずは創業の経緯やこれまでの主な事業内容について教えてください。また、これまでどのような業界や製品向けに鏡板を納品してこられたのか、技術的な特長などもあわせて伺えますと幸いです。
山谷:北海鉄工所は当初、圧力容器用タンクを製造する製缶業をおこなっておりましたが、外部から購入していた鏡板の品質・納期・コスト面が安定せず、大変苦労しておりました。そこで創業者である林会長は業を煮やし、他所に頼るのではなく、自分たちで鏡板を製造しようと一念発起したことから、今日まで続く鏡板事業が始まりました。
鏡板は圧力容器にとって、高い品質が求められる非常に重要な部品です。そこで弊社では、世界にも類を見ない鏡板専用の大型複動油圧プレス機を製造しました。その結果、生産性は従来と比べて30倍に向上し、より高い品質、短い納期、適正な価格をお客様にご提供できるようになりました。現在、こうして製造した鏡板は食料品や医療品、原子力関係などさまざまな分野で活躍しております。
鏡板以外の事業としては、鉄道車両の台車枠部品を製造・販売する車両事業、意匠を凝らしたモニュメントなどを製造・販売する景観事業、特殊な金属曲げ加工品などお客様のお困り案件に対応するエンジニアリング事業、そしてクラフトビールを製造・販売するクラフトビール事業がございます。
本業とは異なる分野にもかかわらず、クラフトビール事業に参入されたきっかけや背景について教えてください。
山谷:「自分たちでつくったタンクで醸造したビールを飲みたい」という林社長の思いから、新規事業としてスタートしました。弊社のビールタンクは、唯一無二の自社製造品となっておりますので、実際にご覧いただくことで、弊社の高い技術力を感じていただけるかと思います。また、弊社は拠点を置く岸和田市に深く根ざしており、クラフトビール事業を通じて岸和田市を盛り上げていきたいという思いも背景にございます。
実際に岸和田ビール用のタンクを製作された際に、特にこだわられた点や工夫された点があれば教えてください。また、今後は他のクラフトビール事業者向けにもビールタンクを製造・販売されるご予定があるかどうか、お考えをお聞かせいただければ幸いです。
石橋:今回製作いたしましたタンクは、「世界に一つだけのデザイン性と機能性を兼ね備えた醸造設備をつくりたい」という思いから、設計・製作をおこないました。コンセプトは「宇宙」。タンク単体でも「宇宙船」を想起させるような意匠を施し、それらが並ぶことで、まるで宇宙基地のような醸造所の世界観を演出できるよう工夫しています。また、今後につきましては、他のクラフトビール事業者様向けにも、こうした醸造設備の製造・販売に柔軟に対応させていただく予定です。ご要望やご関心がございましたら、ぜひお気軽にご相談いただけますと幸いです。
岸和田ビールの特徴について教えてください。例えば、ラガーを専門にしているブルワリーや、エールを専門にしているブルワリー、ドイツのスタイルやフルーツビールを多く手がけるブルワリーなど、さまざまありますが、岸和田ビールならではの特徴や、目指している味の方向性などがあれば、ぜひ教えてください。
山谷:岸和田ビールは、全種類において「飲みやすさ」を特徴としています。クラフトビールといえば、それぞれに非常に個性豊かな味わいがありますが、岸和田ビールでは、万人から親しまれるよう、味わいや風味などのバランスに配慮して醸造しています。
定番の3つのビールについて、それぞれ簡単にご紹介いただけますか? また、季節限定や限定醸造ビールについても、どんなアイデアから生まれたのか、面白い原材料などがあれば、ぜひお聞かせください。
上田:定番三種のビールをご紹介させてください。
まずは、売上ナンバーワンの「鐵工(てっこう)」です。鐵工は、小麦麦芽を50%以上使用しており、一般的なエールタイプよりもさらに柔らかな飲みやすい口当たりのビールです。華やかな香りがする柑橘系のホップを使用しているため、爽やかなのどごしをお楽しみいただけます。昨年は、国内ビールコンテストのジャパン・グレート・ビア・アワーズにおいて、酵母入りライトアメリカン・ウィートビール部門にて銅賞を受賞しました。
次に、ダブル受賞を果たした「黒鐵(くろがね)」をご紹介します。黒鐵は、ローストモルトとカラメルモルトをブレンドした麦芽の香ばしい風味と、コクのある味わいが特徴の黒ビールです。黒ビールが初めての方や苦手な方にも飲みやすく、ぜひ試していただきたい一杯です。鐵工と並び、ジャパン・グレート・ビア・アワーズのブラウン・ポーター部門で金賞を受賞しました。さらに同年秋、インターナショナル・ビア・カップの同部門でも金賞を受賞し、同時にブリティッシュヘリテージというカテゴリーのカテゴリーチャンピオンにも選ばれました。
最後にご紹介するのは「白鐵(しろがね)」です。白鐵はとても軽やかなのどごしで、岸和田ビールの中でも群を抜いて飲みやすいビールです。 ホップの香りが苦手でビールが得意でない方でも、思わず何杯もおかわりしたくなるような味わいが特徴で、特にビールビギナーの方に人気です。お刺身などの魚料理との相性も良いため、卸先の飲食店様からも好評の声をいただいています。
岸和田ビール自慢の定番三種の味わいを、ぜひお楽しみください!
山谷:弊社は岸和田市に根ざした企業であることから、地元を盛り上げるため、同じ泉州地域の特産品を使用したビールや、地産地消の観点から岸和田で採れた農作物を使用したビールなど、副原料を活用したフレーバービールの醸造を始めました。実際にOEMビールとして醸造した、八朔やレモンなどを使用したフレーバービールは、コンテストで金賞を受賞するなど、高い評価をいただいています。また、岸和田市の歴史ある酒蔵・井坂酒造様とのコラボレーションでは、酒粕を使用した酒粕ビールも醸造しています。今後も地産地消を目指し、地域の特産品を使用した面白いビールをたくさんつくっていきたいと考えています。

貴社のウェブサイトでは、定番の3つのビールそれぞれにビアカクテルのレシピが紹介されているのが印象的でした。こうしたカクテルレシピを提案するようになったきっかけや背景について、よろしければ教えてください。
上田:岸和田ビールは「飲みやすいクラフトビール」として誕生しました。その背景には、みんなで乾杯をしたいという林社長の思いがあります。そのまま飲んでもビールビギナーの方に「おいしい!」と言っていただけるほど飲みやすい岸和田ビールですが、ビアカクテルにするとさらに飲みやすくなり、味の変化も楽しむことができます。そうしたことから、定番三種のフレーバーそれぞれに合わせたビアカクテルをウェブ上で提案することで、岸和田ビールの魅力をより多くの方に知っていただけるのではないかと考えました。ビールビギナーの方や、ビールそのものが苦手な方、クラフトビールを飲んだことがない方にも楽しんでいただきたい。そして、みんなで乾杯してもらいたい。そんな思いから、カクテルレシピを紹介させていただきました。
山谷さん、ご自身についてもう少し詳しく教えていただけますか? ヘッドブルワーとして、これまでにどのようなトレーニングを受けてこられたのか、またそれはどこで受けられたのかもお聞かせください。
山谷:私はこれまで、北海鉄工所で主に鏡板事業に携わってきました。ある日、クラフトビール事業を本格的に始めることになった際、突然、醸造家として任命されました。知識も技術もまったくなかったため、他所のブルワリーに修行に行かせていただいたり、本やインターネットから情報を得たりして学びました。これまでとはまったく異なる職種と分野だったので大変なこともありましたが、すべてが新鮮な経験で、楽しく取り組むことができました。
現在は、主に大阪府内の一部のセブンイレブンやコープなどで貴社のビールを購入できるようですが、今後、販売エリアを広げていく予定などはありますか?
秦:全国展開を視野に入れていますが、単に全国に知れ渡れば良いとは考えていません。私としては、クラフトビールファンが集まる飲食店や、美味しいビールがあると評判の店舗には、自然と置かれているような存在になりたいと考えています。一方で、クラフトビールを取り扱う飲食店や店舗そのものをもっと増やして、クラフトビール業界全体を盛り上げたいという気持ちもあります。少し生意気な言い方かもしれませんが、現在クラフトビールを扱っていないお店が、私たちのビールをきっかけにクラフトビールの取り扱いを始めてくださるようになれば、というそんな思いでこれからも頑張っていきたいです。
「こどもMIRAI基金きしわだ」という子ども支援基金や、SDGsへの取り組みもされていると拝見しました。貴社の社会貢献活動について詳しく教えてください。
上田:岸和田ビールでは、売上の一部を「こどもMIRAI基金きしわだ」へ寄付しています。「こどもMIRAI基金きしわだ」とは、岸和田で生まれ育つこどもたちの健やかな成長を支援することを目的に設立された団体です。我々は、これからの時代を生きる岸和田のすべてのこどもたちが、平等に教育を受けることができ、自分らしさを大切にしながら夢と希望を持って未来を描き、「生きていてよかった」と思えるような岸和田のまちづくりを目指しています。また、なんらかの事情で困難に直面しているこどもが「前に進みたい」と思ったときに、その思いをバックアップできる大人を増やしたいと思っています。この基金は、そうした「未来」への思いをつなぐために、経済人を中心に、地域で主体的にまちづくりに取り組む市民や、商業・福祉分野の中間支援組織の知恵と力を結集し設立されました。
また、岸和田ビールはSDGsへの取り組みも積極的におこなっています。具体的には、ビールを醸造した際に廃棄物として生まれる麦芽粕を畑の肥料として再利用しています。さらに、阪南市の協力のもと、これまで廃棄されていた牡蠣小屋の牡蠣殻を加工し、それを用いてつくった濾過水で醸造したOEMビールも製造しました。これらにとどまらず、現在も新たなSDGsへの取り組みを進めているところです。
今後も岸和田ビールを通じて、地域の魅力あふれるまちづくりにより一層貢献していきたいと考えています。そして、母体である北海グループが2046年に100年を迎えるにあたり、弊社が掲げている社是の精神のもと、「持続可能な社会実現の貢献」を目指してまいります。



